美の脇役

薬師寺金堂 日光菩薩像
 グラマーのネックレス  
 


 豊満な素はだに花繋(つな)ぎの胸飾りをつけてみごとに見せている薬師寺の日光菩薩像についてその理由をたずねてみたい。日光菩薩は本尊銅造薬師如来の左わきにひかえており、三b四○aというからグラマーも遙かに及ばないほどに大きい。その上、からだが豊満であり、その各部のプロポーションがよく整えられていることが賞賛される。手は左を下げ右を上げて、その太い腹、大きい腰を右方にまげ、全身の重心を右足に落とし、左足はひざをややまげて息(やす)めている。そのためにそこには自由安楽な余裕のある応揚な趣きが表され、からだの肉付きが豊かであるので一層暖か味がふくまれているように思われる。こういった姿態のものであり、また胸幅の広いことも幸いしてここに胸飾りが表されているのであるから、まずその所と状態とを得たものであることが第一の条件である。第二には胸飾りの表し方の微妙さである。ふくらんだ胸に花繋ぎの形で綴られているこの形式はインドのアジャンタの壁画のもの、焼け失われた法隆寺壁画のものが同様に思い出されるのであるが、アジャンタ、法隆寺の場合は金属製のものに輝かしい宝石をちりばめた胸飾りである。日光像の場合は、このインド風の胸飾りをこの像と同質な銅造で表しているのだから、輝かしい宝石などの意味は伝えられていても、実際には行われていない。その代わりに形を整えた花形のものをリズミカルな連続として表わし、そこに形から見られる美しさを作り、この手法がかえって高貴なもの、輝かしいものと同等な価値にまで止揚させていることである。  かくてからだの豊満なことがよく人の心を円満の境地に導き、細部の技巧が形式美をもって対照させ、それが妙諦(みょうてい)を得ているところに魔術があるといえるし、現代女性に行われている胸飾りに先行しているところに親しみを湧かす理由があるともいえよう。 

(奈良国立博物館学芸課長・岡直巳)