美の脇役 二六
大阪城二の丸南堀石垣
 男 の 城

 僕のような東京生まれの人間の眼から見ると、大阪城の石垣ほど男性的で、豪宕で、少しく殺風景なものはないと驚いた。  江戸城は青芝の土塁の上に、こじんまりとした石垣を築いていて、詩人クローデルが賛美したように、それは女性的であり愛らしい眺めだ。 案外こんなところに徳川家康の性格がにじみ出ているのではあるまいか。一見、柔和に見えて腹黒く、女性的な代わりに陰険な彼の政治と軍事に通ずるものがありはしないか。  そこへいくと大阪城は、あの豪華を愛し、寛達を好んだ太閤秀吉の性格がそのまま表現されているように思う。途方もない巨大な石を配したり、 細胞のように緻密な石組みは、ただ天馬空を行くような男らしさだと言いたい。

濠に切り切った石垣の切線はまるで鋭い刀劔を思わしめる。どこにも隙のない身構えは、戦国乱世の時代を悠々と装いながら、 一分一厘の狂いのない計算の上に成り立った太閤の生涯そのものだ。  しかも何故、殺風景と僕が感じたか。  遊子ひとり城壁のほとりを徘徊して、この金城が愛すべき愚かな女と、正確な判断力にさえ乏しい若大将とによって、 敢てなく落城したことを悲しみ、その後、幾歳月を経ても遂に城として機能しなかった廃城を見てそこに殺風景をくみとらずにはいられないのだ。  江戸城が女ならば、疑いもなく大阪城は男だ。僕はこの対照を、城というものを考える上において面白いと思っている。
           (作家・今東光)