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名品流転の道をたどる あふれる生命感の表出

樹下美人図     

  静岡県熱海の世界救世教本部の一角にあるMOA美術館所蔵の名品については今後、何回か述べることもあるだろうが、その蔵品の中でも古く、少し変わった作品に、ここに示した「樹下美人図」がある。縦百四十一a、横五十六a余りの画面。伸び伸びと枝を張った木の下に、侍女を従えた唐時代の婦人が向かって右前方を向いてたたずんでいる。二人とも静止したままの姿勢せあるが、その婦人を中心にして素晴らしい運動感が画面全体に生まれており、それがこの絵の生命感ともなり、また情感の奥行きともなっている。  そういう点では、正倉院に伝わる「鳥毛立女図屏風」の婦人よりも、生命力にあふれているともいえよう。  実はこれと一対をなすと考えられる、持童を連れた貴人が樹下に立つ図が東京国立博物館に所蔵されている。ほんとうにこの二作が一対であったかどうかは断定できないが、そう見るべき図柄であることは確かである。すなわちこの絵は、男女逢引(あいびき)図の片割れとおぼしいのである。生命感の表出も、このあたりに求められるかもしれない。  この「樹下美人図」は明治末年、西本願寺の大谷光瑞師が中央アジア探検の際、カラホージャ古墳から出土したものを持ち帰ったものであった。そして、いったんは、実業家・鮎川義介の義弟で一流の趣味人でもあった久原房之助の元に収まっていたようであるが、その後、久原から古美術商・繭山龍泉堂に移った。  繭山龍泉堂は昭和二十七年ごろ、この作品を国に購入してもらいたいと申し出た。龍泉堂は高く売りたい。しかし国はちょうど前年に「樹下男子像」の方を百二十五万円で購入しているのでいくらなんでもその何倍もの値段で買うことはできない。国は海外流出を防ぐために重要文化財指定を急ぐ。  困った龍泉堂は、急きょこの作品を世界救世教の岡田茂吉教祖に見せて「五百万円で」と言った。教祖はすぐさま「五百万円で結構」と言って購入したという。  ここにも名品流転の運命を見るのである。

田中日佐夫 (成城大教授)
昭和六一年(一九八六)四月二六日 の新聞記事より